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1: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 14:57:46.05 ID:XQDi837x0.net
>>1が書いた小説を投下するスレです

鬱注意かもしれません

00: オレ的VIPPER速報てきなやつ 2014年 RSS記事一覧 :ID/dkajdiojf
2: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:01:00.12 ID:XQDi837x0.net
それは核戦争のような人為的なものでなく、ただただ、必然であった。
出生率の低下からなる子供の不足、また、医学の発達による少子高齢化。
地球温暖化による環境の変化でからくるストレスで、女性の数が減った世界。
そんな世界に、ある一種のウィルスが現れた。
それは人体に寄生し、その宿主の性別を変えてしまうというものだった。
これは、そんな世界の話。

3: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:04:24.03 ID:XQDi837x0.net
朝起きてから、妙に体がだるいとは思っていた。
元から長めの髪だったから、髪の毛は気にならなかったけど、なにより、胸部に現れた二つの丘が、自分が性転換したことを物語っていた。
それに、目線が少し下がっていることにも気がついた。
元の背が高かったから、縮んでもかなりの高さはあったけど、違和感が支配する視界は、慣れないものだった。

4: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:04:53.31 ID:XQDi837x0.net
階段をおり、両親に性転換した旨を伝えた。
母親は泣いて喜んでいた。
父親は複雑そうな顔をしていた。
それはそうだろう。いずれこの家を継ぐはずだった一人息子が一人娘になってしまったのだから。
家督は誰にするか、ということを考えれば、複雑な顔の一つも出るだろう。
母親は、早速学校に電話していた。
それはそれは嬉しそうな声で。
父親は、複雑そうな顔はそのまま、車を出す準備をし、俺に「支度をしろ」とだけ言った。

5: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:05:32.08 ID:XQDi837x0.net
連れて行かれた先は、市役所だった。
性転換したTS患者は、市役所に届け出をしなければならない。
後のことはお父さんに任せて、と言った母親は、俺を服屋に連れて行った。
母親は、まるで俺を着せ替え人形の様に楽しんでいた。
歴史で習った限りの変化から考えて、ストレスで死なないこの母親の神経は、どれだけ図太いのだろうか。
追いついた父親も、なんだかんだ楽しそうにしていたのは、俺の予想外だったけど。

6: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:06:05.44 ID:XQDi837x0.net
家に帰る間の車で、一人称を俺から私に変えることを強制された。
慣れない口調は、私の精神をすり減らしていく。
両親の適応力の高さもだ。
まるで、男だった頃を全否定されたかのような感覚。
これは、なかなか堪えるものがある。
家に着いてからは、また大変だった。
制服の着方からなにからを一から指導され、夕方には担任の先生まで来た。
部屋に引っ込んでいたからなんの話をしていたかはわからない。ただ、時より聞こえる声が、どうにも受け入れられなかった。

7: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:06:31.96 ID:XQDi837x0.net
次の日から、私は登校した。
教室に着いて、友人から受けた第一声が「君だれ?」だったのは、正直死のうかと思った。
HRが始まり、先生が私がTS病に罹り、女になったことを説明した。
どうやら他クラスでも同じ説明をしているらしい。
これで一躍有名人だ。

8: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:07:54.85 ID:XQDi837x0.net
それからは、別段変わったことはなかった。
体育は休みを貰って見学したし、座学は前と変わらず寝通した。
声をかけてくる軟派者もいたけど、笑ってごまかすのが、私のできる精一杯のことだった。
部活は、私にはできないということで退部届けをだした。
仲間には、悪いことをしたと思っている。

9: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:08:56.04 ID:XQDi837x0.net
そうして、私はフリーになった。
やることもなく街をぶらつくのは、なかなか楽しいものだと再発見したくらいに。
なにが誤算だったかは、帰り道に友人に会ってしまったことか。

10: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:09:47.21 ID:XQDi837x0.net
「あ」
こちらが気づいた時には、遅かった。
向こうはもう気づいていたし、話しかける動作に入っていたから。
「昼間は、ごめん」
「謝られても困るんだけど……」
「え、あ、ごめん……」
前からこんな気が弱い奴だっただろうか、と思うほどにたどたどしかった。
「どうかした?らしくない」
私が悪戯っぽく、そう聞いた。
彼は、それには答えなかった。
代わりに、

11: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:10:33.37 ID:XQDi837x0.net
唇を、奪われた。

離れた瞬間に、彼の頬をひっぱたいた。
が、彼は止まらなかった。
運悪くそこは暗い路地で、そのまま制服を剥ぎ取られた。
昨日母親が買ったひらひらした下着はちぎられた。
私は、かつての友人に穢された。

そして、私は女なのだと、認識した。

12: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:11:08.79 ID:XQDi837x0.net
家に帰ってからも、なにも言わなかった。
ただただ無言で、食事すら取らなかった。

気がつけば、天井から垂れたベルトに、椅子の上。

私は、椅子を蹴った。

13: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 15:12:07.44 ID:XQDi837x0.net
第一話の投下は終わりです

次話の投下は夜になると思います

58: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:48:48.62 ID:XQDi837x0.net
>>14,25,57
ありがとうございます

15: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:41:38.53 ID:XQDi837x0.net
用事が済んだので第二話を投下します

16: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:42:12.23 ID:XQDi837x0.net
ーーーある会社員の話

今朝は、妙に早く目覚めた。
今は朝の4時。日はまだ昇ってすらいない。
限りなく夜に近い朝。私はこの時間が嫌いではなかった。
布団から這い出て、出社する準備をする。
女性を猛烈に優遇する私の会社では、住む所まで会社持ち、給与の他に月に幾万かの追加報酬がでる。
別に金に目がくらんだわけではない。ただ、私の実力ではここが精一杯だったのだ。
世界中を男性が闊歩し、女性というだけで祀り上げられるこの世界が、私は嫌いだった。

17: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:42:45.76 ID:XQDi837x0.net
一日の終わりは、早い。
もともと与えられた仕事を早くこなす事を信条に働く私は、待遇のおかげもあってか定時退社ができる。
早く家に帰れるということは、私にとってなんのメリットもなかった。
でも、それでも気分は楽というものだ。
夕飯の支度を手早く済ませ、皿に盛り付け机へ運ぶ。
いつもなら簡単にできることが、妙にかったるいのは、疲れからか。
食事は、スパゲティにミートソース。
フォークに巻きつける麺は、絡み合い、ほぐれあう。
口に運ぶ動作が、面倒だった。
瞼が、まるで磁石の様に閉じようと、閉じようとしている。
頭がまるで働かない。
力が抜ける。
意識が、跳ぶ。

18: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:43:14.20 ID:XQDi837x0.net
日光に瞼を刺され、暖かな太陽光が皮膚を熱し、目が覚める。
目を隠す筈の髪は、床に散乱していた。
視界を遮る程度はあった胸部は、大胸筋すら浮かない壁になり、肋骨がビブラフォンの様に浮く。
そして、生殖器の形が、まるで変わっていた。
喉には喉仏が増え、骨格も変わった。
太ももやふくらはぎは走りやすそうなシャープなものに、しかし腕は細いものに。
私は、男になった。

19: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:44:58.09 ID:XQDi837x0.net
会社には、性転換にともなう事務手続きから休むと伝えた。
区役所に向かい、戸籍を変えた。
名前も変わった。
今日からの私は××× ××××だ。
両親に電話したら、泣かれた。
男に変わったことが、私の罪の様に言われた。
もう、彼らなんか信じない。

20: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:45:53.25 ID:XQDi837x0.net
午後、社長他重役たちと話をした。
どうやら私は、あの家を追い出されるらしい。
わかってはいたことだが、この世界は、男に対して、厳しい。
増えすぎた男性の価値など、使い捨ての駒と同等なのだと、私は実感した。
自分が女性であることに胡座をかき、祀り上げられることを嫌いと言いながら、それに甘んじていた自分が、このときばかりは許せなかった。

21: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:46:44.02 ID:XQDi837x0.net
家に帰ると、荷物が全部なかった。
転換前に買ったものから、実家から送られたもの、通帳に至る全てのものが、すでに回収され、ここの費用となった後だった。
私は、玄関で泣き崩れた。

22: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:48:13.04 ID:XQDi837x0.net
しばらくすると、同期の男が訪ねて来た。
その男は、呑みに行くぞ、と言った。
居酒屋では浴びる様に酒を飲んだ。

しばらくして、気を失った。


溺れていた。


見えにくい視界には、男の姿があった。


首に指圧感があった。


力が入らない。

息ができない。

苦しい。

死にたくない。




意識が


途切れ

23: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:48:40.58 ID:XQDi837x0.net
『昨日発見されました、○○街での水死体ですが、××× ××××さんであると警察から公式発表がありました。
警察によれば、×××さんは、性転換をしたばかりで、精神的に不安定だったのではないかとみて、聞き込みを続けています。
なお、警察はこの事件を自殺であると発表しておりーーーーー』

24: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 16:50:28.34 ID:XQDi837x0.net
第二話終了です
三話の投下は完成次第始めたいと思います

26: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 18:33:02.15 ID:XQDi837x0.net
第三話の投下を始めます

27: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 18:37:43.94 ID:XQDi837x0.net
ーーーあるニートの話


高校を卒業して、大学進学か就職かを迷っていたら、いつのまにか自宅警備員に就職していた。
どうしてこうなった、とは言わない。
こうなった訳はわかっていた。
夜20時に起床して、親の用意した食事を食べる。
そこから掲示板徘徊をした後、消化ゲームをやる。
空腹から夜食を漁り、部屋で食べながら、過去ログを漁る。
食べ終わったらゲーム。
毎日がその繰り返しだった。
申し訳ない、とは思っていた。
なんとかしなきゃ、とも思っていた。
だけど、俺にはその勇気がなかった。
他人に拒絶され、家族から冷たい目で見られ、他人の視線に晒されることが怖くなっていた。
笑い声が、嘲笑いの声に聞こえる。
人の話し声が、俺を罵倒している様に聞こえる。
太陽が、高い。
世界が、黒い。

28: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 18:38:08.63 ID:XQDi837x0.net
日が登り、俺は眠い目をこすった。
普段なら、ここから延長戦にはいるところだけど。
身体が言うことを聞かない。
指が、キーボードを叩くことを拒否していた。
トラックボールを転がす右手が、凍った様に動かなくなった。
「……寝よう」
辛うじて動く足をなんとか動かして、ベッドに倒れこむ。
足をベッドにのせることもなく、布団をかけることもなく、眠りについた。

29: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 18:38:52.77 ID:XQDi837x0.net
投下の途中ですが、用事が入ったので少し落ちます

帰ってきたら再開します

30: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 19:48:30.45 ID:XQDi837x0.net
かえりました
投下再開します

31: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 19:48:55.12 ID:XQDi837x0.net
夢だ。
明晰夢の類だと思ってくれれば間違いはない。
夕暮れだった。
学校だった。
それは俺が高校生だった頃だ。
目の前には、幼馴染がいた。
目の前には、女子がいた。
俺の手には、昨晩必死で書いた手紙。
俺の手には、彼女の好きなもの。
「×××××!×××××!」
なんと言ったのかは、わからない。

ただ、彼女の口が
「ごめん」
と動いた気がした。

32: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 19:49:57.85 ID:XQDi837x0.net
珍しく日が昇っている間に目覚めた、日曜日の朝。
伸びをしながら欠伸をし、視界にかかる髪の毛に違和感を覚える。
ボサボサだった髪は、実にしなやかでみずみずしいものに変わった。
「……あー」
喉仏を失った声帯は、まるで女性のものの様な声を出した。
細かった身体に変化はなかったけど、平べったい胸部には、うっすらと膨らみがでていた。
浮腫んだ足からは、男性器がなくなり、代わりに、女性器がついていた。
前にスレで見たTS病だなと、俺は思った。

今更変わったところで、もう意味はないのに。

33: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 19:52:24.61 ID:XQDi837x0.net
日が昇っていた間だったから、階下に降りれば家族がいた。
時計は、16時を指していた。
ソファーに横になる妹に、ご飯の支度をしている母。
父親は、まだ帰宅してない様だった。
「あ、あの……母さん?」
久しぶりに喋る家族は、まるで他人の様だった。
「……そう、あんたがね」
母は呆れていたのか、興味がないのか、素っ気なく答えた。
「あ、うん……。それで、区役所に行きたいんだけ……ど……」
もう何年も出ていない外へでなければいけないのは、酷だった。
せめて母と一緒なら、と思ったのだけど、母は忙しそうだった。
「母さんは忙しいの、見てわからない?」
母は少し苛ついた様な口調でそう言う。
ソファーで寝ていた妹が、もぞもぞと起き出すのを、母が制止した。
「このニートと役所まで着いてってやって」

34: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 19:54:27.12 ID:XQDi837x0.net
妹は不服そうな声をだした。
が、母が財布から一万円札を二枚抜き、妹にそれを手渡してから
「これで服も買ってやって。あまったらあんたにあげるから」
と言ったら、目の色が変わっていた。

35: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 19:56:16.33 ID:XQDi837x0.net
「ったく……なんでこいつと……」
妹はブチブチ小言を言っていた。
まぁ仕方ないかもしれない。
何年も引きこもって顔すら思い出せない様な兄のことなんか、俺が妹の立場なら嫌いになる自信がある。
「しかも美人なのがムカつく……」
美人、という単語に一瞬なんのことだ、と思い、すぐに俺のことだと思い出した。

36: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:02:07.90 ID:XQDi837x0.net
全世界に規模を広げているTS病。
正式名称、後天性性異常症候群。
感染率こそ低いものの、空気、口腔、血液、免疫など、様々な感染経路をもち、感染者は1~7日の間に発症、個人差こそあるものの骨格異常や毛髪の異常発育、そして性転換を果たす。
男性異常のこの世界にすれば、この感染症は神からのプレゼントの様だった。
実際は、このままいけば感染者は全世界にまで広がって、男性が滅ぶ。
男性が滅ぶということは即ち、人類の滅亡を意味する。
今の世界は、TS病感染者と女性を優遇する法律や政令が沢山敷かれている。
それが、自分たちの首を結果として締めることになるとも知らずに。

37: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:03:19.60 ID:XQDi837x0.net
あるスレッドでこんな書き込みを読んだことがある。

「どちらにしろ、人類は増えすぎた。
そろそろ、世代交代の時代だ」

ジュラ紀に栄えた恐竜は、謎の絶滅をした。
それと同じで、栄えたものはいずれ廃る、ということか。
強者必衰の理、まさにその通りだ。

38: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:04:51.39 ID:XQDi837x0.net
考え事をしていたら、区役所に着いた。
事務手続きは妹に任せ、俺は受付前で座っていた。
テレビでは、今日のTS病感染者数、というコーナーが放送されていた。
TS病が世界に現れてから幾年。
現在の日本の総人口、9923万人のうち、TS病感染者は0.9%しかいない。
この数字は、多いのか少ないのか。
俺には、わからない。

39: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:09:58.20 ID:XQDi837x0.net
妹が事務手続きを終えて戻ってきた。
俺の新しい名前は「××× ×××」に決まった。
まだ顔は見てないけど、仰々しいような、そんな名前になった。

妹は、俺にいろいろな話をしてくれた。
例えば
「これからは兄貴じゃなく姉さんかお姉ちゃんって呼ぶから」
や、例えば
「お姉ちゃんは可愛いより綺麗って感じ」
や、例えば
「これだけ綺麗なんだから男とか簡単に捕まるよ」
や、例えば
「お姉ちゃん、料理とか家事上手かったから、主婦として生活できるよ」
などなど。
後半に至っては、俺がどんな男が趣味か、という話になっていた。
「ちょ、待って。俺元男だから……どんな人が好きとかわからないから」
「はい、俺禁止」
「なん……だと……」
「そのキモい喋り方も禁止」
制約がいろいろつけられてしまった。
ここまでいろいろつけられると、逆に清々しかった。

40: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:10:46.52 ID:XQDi837x0.net
服屋というものは、俺はどうにも好きになれない。
キャピキャピした女子達が、キャピキャピした服を選び、キャピキャピしながら買い物を済ませ、またキャピキャピしながらスタバで高い飲み物を飲んでいる雰囲気しかないからだ。
俺はキャピキャピしたものが嫌いだし、苦手だ。
それに、服屋にはいい思い出がなかったが、それはまた別の話。
とにかく、俺は服屋が嫌いだった。
しかし、女になった以上、男物の、しかもロゴ入りジャージにダボダボパーカーというわけにもいかないらしい。
「お姉ちゃんは綺麗なんだから、もっといい格好しなきゃ駄目だよ」
そういう妹に反応した自動ドアから漏れ出した、衣類用の糊とアイロンの様な匂いが、俺の鼻腔をくすぐった。
いらっしゃいませ、という店員の声に、足が竦む。
胃から逆流した、消化途中だった食物が、食道へと向かう。
嗚咽とともに口から飛び出しそうになった吐瀉物と、それに伴う嘔吐感が、俺の脳を刺激した。
「お姉ちゃん?」
心配そうに見てきた妹に手を握られ、意識が現実に引き戻されるように、嘔吐感も収まる。
やっぱり、服屋は苦手だ。

41: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:11:19.17 ID:XQDi837x0.net
店員さんと妹の着せ替え人形に甘んじていると、一時間という時はあっという間に過ぎる。
店を出る時には、もらった二万円はほとんどなくなり、妹はその金で俺に飲み物を買ってきてくれた。
俺の大好きな、ジンジャーエールだった。
「はい」
妹は、ジンジャーエールを手渡ししてくれた。
俺はそれを受け取り、礼を言う。
「ありがとう」
「……お礼言うなんて珍しい」
失礼なことを言われたが、気にしない。
キャップを捻り、プシュッと小気味良い音を立てながら抜ける炭酸を、逃さないように口を付け、一気に煽る。
喉を駆ける刺激が、心地いい。
口の中に仄かに残る生姜の風味が、懐かしかった。
「昔は、二人でよくジンジャーエールを回し飲みしたよね」
唐突にそういった妹に、俺はなにも言えずにいた。
小さい頃は、良く妹とも遊んだ。
近くにあった公園で、近所の子供達も巻き込んでサッカーやバドミントンをしてた。
でも、それも俺が小学校に上がるまで。
小学校に上がると、俺はあまり外にでなくなった。
その頃発売されたゲーム機に、俺は夢中になっていた。
妹にせがまれても、頑としてきかず、俺は部屋にこもる時間が増えていった。

42: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:13:13.54 ID:XQDi837x0.net
中学に上がる頃には妹とは疎遠になっていたし、家族ともあまり話さなくなっていた。
それでもなにも言われなかったのは、そこそこの成績をだしていたからか。
高校に入る頃には、家族とも全く話さなかった。
友人は数える程しかいなかったし、それが不都合とも考えなかった。
ただのうのうと毎日を過ごし、繰り返される日々をだらだらと生きていた。
進路相談の時にもまともな回答をせず、そのままずるずると卒業してしまった。
進学も考えたけど、結果として、それは思考実験でしかなかった。
結果としてニートになった俺には、もうなにもなかった。
インターネットの中に真実を求め、現実を否定した。
画面の中の世界しか信じずに、目に見えたものを否定した。
社会を否定し、自らを肯定することでしか、存在価値を見出せなかった。
輝く世界に嫉妬し、暗い世界を憎んだ。
俺は、ただのダメ人間だった。

43: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:13:44.70 ID:XQDi837x0.net
帰りに、近場のコンビニに寄った。
お目当てのものは、手に入った。

ノックの音がし、妹の声がする。
はいるよ、と言われたので了承した。
「お姉ちゃんご飯……ってなに書いてるの?」
「これ?あぁ、これは履歴書だよ」
「履歴書?お姉ちゃんバイトするの?」
「まぁね。これを気に、ってやつ?」
「お姉ちゃん……」
妹は、叫びながら何処かへ行ってしまった。
その晩、久しぶりに家族と食事をした。
暖かいご飯は、美味しかった。

母親にバイトについて根掘り葉掘り聞かれたのは、また別の話。

44: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:14:17.81 ID:XQDi837x0.net
数日後、面接に向かった。
店長は優しそうなお爺さんで、うんうん、と話を聞いてくれた。
結果は、合格だった。

45: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:16:02.26 ID:XQDi837x0.net
「ねぇ、お姉さんのバイト先ってどこなの?」
「ん?あそこのコンビニだよ?」
「行ってみようよ」




「いらっしゃいませ、ようこそ!」



これは、あるニートの物語。

46: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:19:36.76 ID:XQDi837x0.net
以上で第三話の投下は終了です
感想など書いていただけると嬉しいです
第四話の投下は2030頃に始めます

47: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:29:32.09 ID:XQDi837x0.net
第四話の投下を開始します

48: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:31:38.40 ID:XQDi837x0.net
ーーーある男子生徒の話


中学校も3年になれば、性の意識がはっきりとして、異性に興味を持ち始めたり、自分の性を理解して、それを意識したりしはじめる時期だと思う。
ボクの場合は、それが少し違っていた。
ボクが他人と違うと自覚したのは、小学校も高学年。
ボクは始めて恋をした。
クラスでも上位カーストに入る、かっこいい男の子で、ボクなんかにも構ってくれて、よく遊んだりもした。
そんな彼に、ボクは恋をした。
でも、それはかなう事がなかいものだった。
何故なら、それはボクが男だからだ。

49: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:32:45.13 ID:XQDi837x0.net
ボクの容姿は、まわりのいわゆる男性のものとは違っていた。
すらりと伸びた白い足、毛一つない腕、そして鼻筋の通った顔立ちに、長く艶やかな黒髪。
ボクの容姿は、女性のそれに酷似していた。
ボクのお母さんは、まだ感染が世界規模になる前、感染がはじまった頃に、TS病について研究していた科学者だった。
でも、不慮の事故によって防護服内に侵入したTSウィルスに冒され、女性化した経歴を持つ。
そんなお母さんが、TS病について何を研究していたか、前に教えてもらった事がある。

50: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:33:28.59 ID:XQDi837x0.net
それは、「TS病感染者と、その家族の発症率と容姿の異常」だった。
それは簡単に言えば、TS病患者の子は、TS病発症の確率が一般人の4倍、また、子の容姿が、その子のもつ性別に一致しない、というものだった。
TS病患者を母にもつボクは、その影響から、女性の様な容姿になってしまった。
ボクは、この姿が嫌だった。

51: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:35:23.23 ID:XQDi837x0.net
小さい頃はまだ、性別に対する意識の相違がなかった。
それが小学校になり、それも高学年になるにつれて、自意識と身体の相違に戸惑い、一時期は一種の鬱の様になったこともあった。
それも中学に上がる頃には落ち着いた。
それでも、初対面や事情を知らない人に会うと「何故男子の制服を?」と聞かれる。
ボクは、それが嫌だった。
嫌だけれど、今更長い髪を切ってどうこうしようとは思えない。
これが昔からのボクだったし、これじゃないボクを、ボクは見たことがないから。
それでも、自分の意識が自分でも理解できないことが、辛い。

52: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:36:21.46 ID:XQDi837x0.net
「×××ー!」
名前を呼ばれ、ハッと意識が現実に引き戻される。
名前を呼んだのは、彼だった。
「どうしたの?+++君」
ボクは冷静に、平静を保ちながら応える。
そうでもしないと、心臓が飛び出してしまいそうだったから。
「今日放課後暇か?」
「暇だけど……なんで?」
普段なら、用事を言って直ぐ席に戻る彼にしては珍しく、何か吃っていた。
「いや……ちょっと話があってな」
「話ね。うん、わかった」
「じゃ、放課後にな!」
話の内容は教えてくれなかったけど、彼は吃っていたのはどこへやら、直ぐに元気を取り戻して自分の席に戻って行った。
ボクは、楽しそうに談笑している彼を見ていることにした。


休み時間も終わり、授業がはじまる。
彼は発言したがりなのか、よく玉砕していた。
その姿は、とても微笑ましいものだった。
国語の音読では、一字一句間違えずに読み上げ、嬉しそうにしたり
数学では、問題が解けたと喜んだり。
彼は、喜怒哀楽のはっきりした人だった。
それは、見ていてとても楽しいものだと思う。

53: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:38:36.75 ID:XQDi837x0.net
気がつけば放課後で。
彼につれられて校舎裏に来ていた。
この時間ならば人も来ないから、秘密の話をするにはもってこいだろう。
「それで……話ってなに?」
ボクがそう聞くと、彼は少しの沈黙の後、徐に口を開いた。

それは、ボクにとって衝撃的なものだった。

「俺には好きな奴がいる」

「最初はそいつのことを女だと思っていた」

「でも、そいつは男だった」

「でも俺は、そいつが好きだった」

「なぁ、どうすればいい?」







「好きだ、×××」

54: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:39:32.32 ID:XQDi837x0.net
家に帰って、横になる。
精神的な疲れからか、横になった途端に眠気に襲われて

眠りについた。





朝、日が昇る前に目が覚める。
お母さんは研究所に入りっぱなしだし、父さんは幾年か前に死んでしまったから、朝食の支度はボクが一人でする。
炊き忘れていたご飯は諦め、食パンをトースターに放り込む。
タイマーを設定し、部屋に戻った。
着ていた服を脱ぎ、そこでようやく体の変化に気づいた。

55: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:41:33.27 ID:XQDi837x0.net
せわしなく着替えを済ませ、トーストを口に詰め込み、紅茶を流し込む。
家を飛び出し、彼の家を目指し、走った。
彼は、丁度よく家から出るところで
「おま……どうしたんだよこんなところで」
「……き、昨日の……返事を……しておこうかな……って」
走ったからか、息が整わなく、肩を震わせるボクーーーいや、私を、彼はじっと見た。
「返事なんて……いいよ」
「よくない!」
突然にあげた大声に、彼はビクつく。
そこに畳み掛けるように、私はこう言った。






「×××!16歳!性別''女''!貴方の彼女にしてください!」

56: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:43:01.29 ID:XQDi837x0.net
第四話終わりです

59: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:49:53.18 ID:XQDi837x0.net
次回で最終話になります

62: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:51:40.06 ID:XQDi837x0.net
高評価を貰えて嬉しい限りです
最終話は今までとは違う感じになってます
もしかしたら苦手、嫌いな方もいらっしゃるかもしれません

63: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:53:48.40 ID:XQDi837x0.net
ーーーある研究者の話

我々人類が、20年前ーーー現在2053人年から差し引いて2023年ーーー環境ストレスからなるxx染色体保持者の減少から、緩やかに衰退を始めて以来、女性というものの希少価値は高まる一方だった。
対策として、人工子宮の開発や、万能細胞を用いた体外受精の実験など、様々な方法を使っても、倫理や人権、費用などの様々な問題が山積みとなり、結果として実用には至らなかった。
国連及び国連加盟国は、女性種の保存を目的とした様々な方法を試し、結果、ストレスをなるだけ与えない、女性優遇措置が取られることになった。
それからというもの、女性ということに胡座をかき、それを振り回して男性を見下すようになるのに、それほどの時間は要らなかった。
もちろん、全て女性がそうとは言わない。
でも、すくなからず私の周りには、そういう人しかいなかった。

64: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:54:55.94 ID:XQDi837x0.net
止まらない人類の衰退。
その福音が、13年ほど前になった。
後天性性異常症候群。
産まれもった性別ではない、その対となる性別に、僅か短時間でなってしまうという、細菌性症候群。
空気、経口、血液、体液と、およそ考えられる全ての感染経路から感染し、発症まで1~7日しかない、この細菌と、私は生きてきた。


私の人生を大きく変えたTS病との出会いを、ここでは語ろうと思う。

65: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 20:56:17.61 ID:XQDi837x0.net
<<機長より、乗客の皆様へ。当機はこれより着陸体制に入ります。シートベルトの着用をお願いします>>
長い空の旅も終わりを告げ、衝撃と共に訪れる「地に足が付く」感覚が戻ると、私は荷をもって機体から降りた。
南アフリカ共和国。発展は女性の減少でとまり、半ば廃墟と化した高層ビルと、人の疎らな都市部は、人類衰退の現実を、我々に見せつけるようだった。
「ようやくいらっしゃいましたか」
懐かしい声と日本語で、私は振り返った。
「高橋博士……」
「博士はやめてくれ、前みたいに憲司叔父さんでいいよ」
高橋憲司。
細菌研究のエキスパートで、最近設立された、国連細菌テロ対策室の室長をしている。
そして、私の叔父。
「で、叔父さん。上の指示でこちらに来ましたけど、何かあったんですか?」
「それは車の中で話そう。向こうに待たせてあるんだ。エアコンも効いてる。ここは暑いだろう?」
「えぇ、じゃあ行きましょうか」

66: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:00:49.43 ID:XQDi837x0.net
空港をでた先にあったのは、陸上自衛隊の89式戦闘装甲車だった。
周りには、22式小銃を携帯し、砂漠迷彩に身を包んだ陸上自衛官が、周囲を警戒している。
「三曹、こちらが件の博士だよ」
三曹、三等陸曹の階級章をつけたその自衛官は、手を差し出して
「お初にお目にかかります、博士。私は野崎三曹です」
と自己紹介した。
「どうも、私は唐氏といいます」
差し出された手を私は握り、自己紹介した。
「三曹はこれからの状況の外敵排除……ようするに露払いをしてくれるんだよ」
叔父さんはそう言った。
「露払い、と言うことは、何か命の危険が?」
「民兵組織が、これから向かう村で幅を利かせてる。敵の装備は小銃や拳銃の様な生易しい物じゃない。ソマリアの様に対戦車ロケットやRPGまで持ってやがる」
「我々の他にも、多目的ヘリや攻撃ヘリの支援まであります。博士には傷一つつけません」
「それは……ご丁寧にどうも」
「行きましょう、そろそろ時間だ」
装甲で固められた後部ハッチから、我々は戦闘装甲車に乗り込んだ。

67: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:02:15.20 ID:XQDi837x0.net
「ここから数十分のところに、PKFの航空基地があります。そこでMH-60に乗り換え、1時間ほど飛行します。目的地はここです」
野崎三曹の指さした先には、周りを山で囲まれた、小さな村があった。
「未確認の細菌が蔓延し、これは噂ですが、なんでも男性が女性になったとか」
「ん……なバカなっ」
「私も冗談と信じたいですが、先遣隊の報告では、女性の数が男性に比べ圧倒的に多い集落だった、と」
にわかに信じられないことだった。
全世界的か気候の変動からなるストレスから、XX染色体保持者、要するに女性の数が激減した現在、一集落の男女比は9:1にまで落ち込んだ。

68: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:02:40.71 ID:XQDi837x0.net
これは先進国で、しかも其れ相応の処置を施された地域での数字。
アフリカの地方では、それがどんな極端に小さい数字になってるかなど、想像すらつかない。
「あと、装備ですが」
三曹は掛けられた低圧密封されたケースから、通常迷彩の防護服を取り出した。
「細菌蔓延地域ですので、着用してください」
ヘッドセットの無線機の電源をいれ、狭い車内で、防護服を着た。

69: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:03:16.92 ID:XQDi837x0.net
轟音と共に飛び立つ攻撃機を横目に見つつ、回転翼の回っているMH-60に乗り込む。
ダウンウォッシュで巻き上げられた熱風が、防護服の中を蒸し風呂にしていく。
「状況は1130開始予定です。状況地域着後、まずは患者の問診から始めましょう」
「了解です」
ふわりともせずに浮かび上がり、上下にガタガタ揺れる機体の中には、戦場へ向かうかの様な緊張感が漂っていた。
でも、実際に行われるのはただの診察であり、そこに民兵からの軍事介入がなければ、全く問題の無い事だ。
「叔父さん、その未確認の感染症についてなにかわかっている事は?」
「現在わかっている事は、感染者の遺伝子情報を改編する、ということだけだ」
「それは、何か臨床実験で得られた資料?」
「一応マウスでも実験はした」
「結果は?」
「遺伝子改変が見られた以外には特に」
「そうですか」
問診前の事前情報ほど、助かるものはない。
それは、どんな場合でもそうだ。
大体のあたりがついていれば、そこから絞り込むことだって容易だから。

70: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:03:44.14 ID:XQDi837x0.net
乾燥した砂を、ダウンウォッシュが巻き上げる。
周辺警戒をしつつ降りた陸自隊員の後につづき、重苦しい防護服に身をつつみ、降りる。
黒人の白目から光る、ぎょろりとした黒い目に、私は少し疎外感を感じていた。
「OH-1からの報告では、周辺地域に民兵の姿はないそうです」
「ゆっくり診察できるってことですね」
「えぇ。これから我々は状況を開始します。状況時間は1時間。それまでにサンプルの確保をお願いします」
「わかりました。じゃあおじさん、やりましょうか」
「よし、わかった」
通訳の隊員に連れられ、ある一つの家に入る。
中には、男性用の衣類に身を包んだ女性がいた。
「この村の長だったのですが、この通り女性化を」
「冗談だと思ったんだけどな」
「残念ながらこれが事実です」
「……この事象が解明されたら、もしかしたら人類には福音かもしれんな」
「そうなればいいですけどね。その可能性を確かめる為にも、サンプル、お願いします」
黒人の女性は、まっすぐこちらを見る。
黒目に射抜かれた、と言うべきか。

71: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:04:13.19 ID:XQDi837x0.net
「こんにちは」
同時通訳で隊員が話しかける。
「私は日本の医者です。貴女達を治す為に来ました」
もちろん、治す為というのは嘘だ。
この作戦の目標はサンプルの採取であり、患者の治療ではない。
治療も何も、この細菌の特性や発病後の症状もわかってないのだ。
「Mimi kufa kwa ajili ya?」
彼女が何かを言う。
「私は死ぬのか?」
「いえ、私達の医療技術で貴女を助けましょう」
「Nimekuwa nini duniani?(私は一体どうなるのだ?)」
「私たちに協力して頂ければ、貴女を助けることができます」
「Nifanye nini?(何をすればいい?)」
「では腕を出してください」
彼女は言われた通りに腕を出してきた。
私はその細い腕に採血帯をつけ、注射器を挿入した。
「Chungu(痛い…)」
「すぐ終わりますから」
計25cc。
この中に含まれる細菌を培養し、猿に投与する。
結果はまだわからないけど、私は血液の入った密閉試験管を保冷鞄にしまった。

72: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:04:44.31 ID:XQDi837x0.net
「少し、お話しませんか?」
「Nini anatakiwa kusema?(何を話せばいい?)」
「貴女が女性の体になったときの状況などを」
「Sijui. Wakati kuamka asubuhi na hii imekuwa katika mwili huu.(わからない。朝起きたらこの体になっていた)」
「何か、体がだるいとかありませんでしたか?」
「Wepesi? Sijui, mwili inakuwa ajabu nzito, ni kwenda kulala mara moja siku hiyo.(だるい?よくわからないけど、その日は妙に体が重くて、すぐに寝てしまったよ)」
「なるほど。ありがとうございました」
発症の前日に体の不調。
倦怠感と長時間睡眠。
「何かわかりましたか?」
三曹だった。
「いや、まだわからないです。これから研究所に戻って培養実験をしないと」
「そうですか……。これが人類の福音になるといいですね」
「えぇ……」
バタン!と開けられた扉から、隊員が一人、入り込んでくる。
「報告!敵、二ヶ小隊!装備、Ak小銃にRPG、車両、テクニカル!」

73: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:05:49.49 ID:XQDi837x0.net
「マルヒトより本部。ガンシップの支援を要求する。送れ」
「本部よりマルヒト。米軍はガンシップを貸せないと言ってきた。現状の装備で対応されたし。送れ」
「了解。終わり」
三曹は、無線でしきりに本部と連絡を取っていた。
民兵と言えども、その命を惜しまない戦い方と、数に圧倒され、最新の装備をもった部隊でも敗北を喫することがあると言う。
1993年、ソマリアの首都モガディシオで起きた民兵と米国特殊部隊との戦闘では、米国側が2機の最新鋭ヘリコプターを撃墜されるという敗北で幕を閉じた。
現代戦において、人の命、一人の兵隊の命は、軍事予算の中で最も高いと言われる。
総数20万しかいない自衛隊では、それが特に顕著であった。

74: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:06:37.90 ID:XQDi837x0.net
「目標視認!距離1000!テクニカルだ!こっちに向かって来る!」
大振りの建物の屋上で、狙撃任務についていた観測手が叫ぶ。
次の瞬間、近くにあった建物が一つ、爆発と轟音を伴って吹き飛んだ。
「撃て!」
その号令で、12.7mmの弾丸が、音速よりも幾らか早い速度で飛んでいく。
ドゴンッ!と腹に響く発砲音は、私が戦争行為に巻き込まれたことを実感させてくれた。
「目標後部着弾!次弾装填せよ!」
どうやら、テクニカルの後部、砲座付近に当たったらしい。
再び放たれた弾丸に、今度は
「敵車両ヒト、破壊!目標、次!」
に変わった。
その後も何発か撃たれた銃弾で、テクニカルを行動不能にしたことを知る。
「分隊移動開始。武器の使用を許可。殲滅せよ。繰り返す。殲滅せよ」
三曹は、無線にそう言った。

75: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:07:24.37 ID:XQDi837x0.net
AH-6搭載のM134Dの攻撃で民兵の半分がが死に、AH-64Dのハイドラロケットランチャーで更に半分が死んだ。
身を隠す事をあまりせず、狙いが雑な民兵の弾は、訓練を受け、プロとして、自衛官という、国の盾になった彼らの敵ではなく、ただただ、射撃訓練の的を倒して行くかの如く、一方的な殲滅であった。
サンプルに傷はたった一つの無く、戦闘が始まる前に何処かへ消えてしまった叔父さんを探すのも後日になった。

76: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:08:25.67 ID:XQDi837x0.net
揺れるヘリの機内で、考え事をしていた。
果たして、あの細菌はいったいなんなのだろう?
現在疑われる症状は、性転換。
人類か躍起になって人工性器を作ってきたのに、それを一瞬で否定する細菌が現れた。
笑えてくるこの状況に映る日差しは、沈みかける茜色だった。

77: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:08:54.95 ID:XQDi837x0.net
アフリカからの帰国後、私は国立感染症研究所のある研究室をあたえられ、そこで培養実験を繰り返していた。
血液中の細菌は、ファージにも見える特異な形をしていた。
血小板に取り付いた細菌は、その細胞を侵食しつつ、ある成分液を分泌する。
それが全身に回る時、人の遺伝情報にある異変が起こる。
XYとして形成されていた遺伝子の一部に、変異作用をもたらし、変異後の遺伝子は、XXと同じ塩基配列を持ちながら、環境ストレスに耐えられる適応性を持つ塩基を追加付与される。
それが、僅か8時間で完了した。
特筆すべき点は、モルモットに鬱にも似た症状が出た、位だろうか。
変異対象がXXの場合も考え、メスのモルモットの血液で細菌を培養した結果、XXはXYへと変化した。
私は、この細菌によって引き起こされる一連の症状を「後天性性異常症候群」とした。

78: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:09:31.89 ID:XQDi837x0.net
密閉戸が開き、防護服に身を包んだ人影が一つ、培養実験室に入ってくる。
「叔父さん?」
「どんな感じだ?細菌の方は」
「そんなことより、今までどこにいたんですか!?」
「どこでもいいじゃないか」
徐に取り出されたそれが、ロシアのトカレフ自動拳銃だとわかるのは、少し後の事だ。
狙いが適当で、私の防護服の一部と、実験に使用していた細菌のサンプルを砕き、弾丸は壁に穴を開けた。
「……ッ!何をしてるんです!!」
「それはこっちの台詞だ。私の手柄だぞ?その細菌は私のものだ」
焦点が既にあっていない目と、恐れと過剰に放出されたアドレナリンの影響からか、叔父さんの手はガタガタ震えていた。
「甥の分際で!私の横取りをしようなんて!死ね!死ねよ!」
同時に二発、合わない照準は脇腹をかする。
「ッ!」
「痛いか!?どうだ!?私の手柄を奪おうとした報いを受けろ!!」
千鳥足。
酔っ払いの様な足取りで近寄って来る叔父さんは、もう私の知る人では無かった。
額に銃口を押し付けられ、引きつった笑みを浮かべる叔父さんの顔を睨む。
ゆっくりと人差し指が動き、ハンマーが雷針を叩き、雷針が弾薬内部の雷管を叩き、発火した雷管が火薬に火をつけ、弾頭を飛ばす。
その間、僅か0.1秒。
人は、危機的状況や、死に直面すると、一秒を長く感じるという。
永遠にも引き伸ばされたその一瞬が、私に平静さを取り戻した。

79: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:10:24.39 ID:XQDi837x0.net
爆発の轟音と、吹き飛ばされたジュラルミンに、叔父さんはたじろぐ。
「突入ッ!」
鋭い声と、足音の殆どでない歩き方で、彼らは室内に侵入してきた。
「ヒィイ!」
叔父さんは、悲鳴とも取れる奇声をあげ、トカレフを向けた。
引きかけていたトリガーをひき、パン!と低く乾いた音がなる。
着弾した先は明後日で、壁に9mmの穴を開けるだけに留まった。
代わりに、パススッ!と、サプレッサーのくぐもり、小さく圧縮された発砲音が響く。
5.56mmの弾は、壁に当たることもなく、叔父さんの体を小さく穿つだけだった。
ストッピングパワーの改良がされ、より殺傷力の高まった弾は、叔父さんの内臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜ、叔父さんは突入から10秒かからず絶命した。
「マルヒト、こちらヒトヒト。対象射殺。状況終わり。送れ」
そう言った彼の声は、数週間前まで私と行動を共にしたものだった。
「野崎三曹……」
「お怪我は?」
「大丈夫です……」
手を伸ばされ、その手を掴む。
ゆっくりと立ち上がり、死んだ叔父さんの顔を見下ろした。
「名誉に目が眩み、手柄を横取りしようと民兵から武器を密輸したんでしょう。情報科からの暗殺要請を受けて来ました」
「情報科……。貴方達は普通科の人間じゃないのか?」
「我々は……」
「特戦……ですか?」
特戦、特殊作戦群は習志野駐屯地を拠点にしている、自衛隊初の特殊部隊。
その全貌は未だにベールの中だ。
「ご同行願います、博士」

80: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:11:10.44 ID:XQDi837x0.net
目隠し、ヘッドホンと、周囲の情報を完全に遮断された状態で、私はヘリに乗せられた。
独特な縦揺れに襲われながら、体感時間で一時間ほど揺られたあと連れて来られたのは、駐屯地内の隔離施設の様だった。
病院着に着替えさせられ、チョーカーを首にはめられたあと入れられた部屋はベッドと小さな窓しかなく、壁はマジックミラーになっている様だった。
「……三曹か?」
カコン、とマイクがオンになる音がした。
「どうも。私、情報科の斎藤二尉と申します」
斎藤、と名乗った若い士官は、間延びした声で自己紹介した。
「自衛隊の諜報部が何の用だ」
「いえ、大した用ではないんですがね?先日、研究所で発生した銃撃戦と、それに伴うバイオハザード防止の為に、その場にいた全員をこうして隔離させていただいてる訳です」
「マジックミラーに、盗聴器。隔離施設にしては設備が物々しくないか?」
「あらら。気づかれてましたか」
「何の用だ?」
「先程申し上げたのが全てですよ」
冗談とも本気ともわからない喋り方で、話をはぐらかされていく。
流れに流されるのは、この状況では危険だ。
窓から見える風景から考えると、今は夜の様だ。
この閉鎖空間では、時間の流れを把握しておかないことには、正気を保つことすら難しいだろう。
「食事です、ここの飯は美味いですよ」
開けられた扉から入って来たのは、化学防護服に身を包み、さらに戦闘防護衣を重ね着した、自衛官だった。
「カレーです。我々自衛官とは深い縁のある食べ物です」
「……だからどうした」
「特別深い意味はありませんよ。どうぞ、お食べ下さい」
先の割れてないスプーンに、プラスチックのコップに入った牛乳。
きゅうりやキャベツ、トマトの乗ったサラダ。
なんの変哲もない、ごく普通のカレーだった。
「毒なんか入ってませんよ。どうぞ」
少しの不安の中、スプーンを手に取る。
まだ湯気の立っている白米に、カレーを少し掛け、口に運んだ。
「どうです?美味いもんでしょう?」
美味いか不味いか、と言われたら美味いと答える。
だが、この不可思議な味はなんだろうか。
「どうしました?味に何か不審な点でも?」
「カレー粉ケチってないだろうな?」
「まさか!そんなことするわけないじゃないですか」
彼の言う言葉が正しければ、おかしいのはカレーではなく、私の味覚と言うことになる。
「まぁ、疲れもあるでしょうし。ガラムマサラ要ります?」
「いや、いい」

81: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/11/02(日) 21:27:19.86 ID:YyuT7wif0.net
続き 気になってる(ノ_・。)

82: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/11/02(日) 23:51:37.80 ID:w6CZUMJg0.net
ここまで読んだ感想としてちゃんと世界観が練られていてとても面白い
そして自分の今の状況と照らし合わせてTS病にかかりたいなと思った
ただこの後の展開で症状が次第に酷くなるとかなら考え改めるかもだけど

続き期待

83: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:04:22.93 ID:7unva8SU0.net
アクセス規制かかってしまいました

投下再開します

84: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:05:55.76 ID:7unva8SU0.net
勧められた香辛料が、名前通りのものとの保証ははどこにもなかった。
この状況で、自らの身を守れるのは、自分しかいない、そう思った。
「こんばんはお休みください。また明日来ます」
バタン、と扉の閉まる音がして、部屋の電気が落とされる。
クラリ、と意識が揺らぎ、カレーに薬を盛られたと思った時には、意識が飛んでいた。

登った日光が顔を刺し、瞼が焼ける。
顔中に熱されたマットを押し付けられる様なこの感覚は、妙になれない。
黒目が焼けない様に開けた瞳は、見知らぬ天井を写した。
「おはようございます。博士」
間延びした声。
「お変わりない様で、少し残念な気持ちです」
「変わるって、この状況でどう変われと」
「さぁ?私達にはわかりませんね」
まるで知ってる様な口ぶりに、私は腹がたった。
「朝食は食べられますか?」
「いや、いい。昨日のカレーがまだ効いているんだ」
そうですか、とニ尉は言った。
私はベッドに横になり、そのまま目閉じる。

85: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:06:52.96 ID:7unva8SU0.net
「少し、お話しませんか?」
「話って、何の?」
「貴方がアフリカで入手したサンプルのその後が、気になりませんか?」
サンプル、後天性性異常症候群を引き起こす、あの細菌。
「気にならないと言えば嘘になる」
「そうだろうと思いましたよ。ではお話ししましょう」
二尉は、もったいぶることもなく話し始めた。
「サンプルは、現在自衛隊の中央特器隊が培養中です」
「そりゃ……なんの為に」
「そりゃ決まってるじゃないですか」

86: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:07:52.11 ID:7unva8SU0.net
「政府主導の細菌テロを起こすためですよ」

声が出なかった。
何も言えない。
叩きつけられた事実に、私は驚きを隠せなかった。
「今……なんと言った?」
聞き返しても、帰ってくるのは同じ答え。
「政府主導の細菌テロを起こす為です」

「現在、日本国内での男女比は9:1。男性の数が圧倒的に多い。政府は、この状況に憂いを感じておりました。そんな中、アフリカで、性転換する細菌が発見されたのです。政府は大量の資金と、専門家。サンプル回収にはオーバー過ぎる程の軍事力を投入しました」
「アフリカでの、あれか」
「そうです。サンプルを回収した後、政府はある実験を思いつきました」
「人体実験……か?」
「まぁ、結論から言えばそうです。違ったのは、被験者が死刑執行を目前にした死刑囚から、細菌の専門家に変わったことですけどね」
「まさか……ッ!」
「えぇ、貴方です。銃撃を受けた貴方は、特戦に確保され、この施設に回収された。政府としては、誰でもよかったのでしょう。貴方の代わりはいる。そう考えた政府は、我々情報科にある任務を託します」
「私の監視、か」
「いいえ?」
「では、なんだ?」

「貴方へのサンプル投与ですよ」

87: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:08:26.22 ID:7unva8SU0.net
「右腕をご覧ください。肩のあたりに注射後があるでしょう?」
袖をまくった。
昨日までは無かった絆創膏が、そこに貼られていた。
「感染の疑いがある被験者なら、都合が良かったんでしょうね」
「で、この騒ぎか」
「えぇ。貴方が本当に性転換したら、全国に設置された散布装置から、少量ながら細菌が散布される予定です」
「冗談だろ」
「残念ながら、これは既に閣僚会議でも承認され、総理大臣の印も押された決定事項です」
頭を、金槌で殴られた様だった。
衝撃と、絶望。
細菌テロの引き金は、私の体に掛かっている。
その事実が、重い。
「貴方の提出したデータだと、猛烈な倦怠感が見られる様ですが」
「……昨日のアレは、お前らが薬を仕込んだんじゃなかったのか?」
「言ったでしょう?毒なんか入れてないですって」
猛烈な倦怠感。
初期症状がでてしまっていた。
「まぁ昨日は疲れもあったでしょうから判断はできませんが。何にせよ、貴方の体に日本の運命が掛かっているんですよ」
ここで発症し、性転換がなされたなら、たった一度の臨床実験で、その細菌が日本中に撒かれることになる。
感染経路についての実験はまだだったが、恐らく、いや確実に、将来パンデミックによる滅亡が起きる。起きてしまう。

88: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:09:01.92 ID:7unva8SU0.net
「パンデミックの可能性は、政府は考えているのか?」
「どうでしょうね?政府のお偉方は、今も昔も目先の私利私欲に目が眩んでますから」
「パンデミックが起きたら、また今の日本と同じことになる。それだけは阻止しなければならない」
「自殺でもしますか?」
「できるなら、な」
「おや、お気づきでしたか。そのチョーカーは、貴方が何かしようとしたら、まぁ自殺などをしないために作られたものです。スタンガンと同じ役割をします」
「作動する様なことをしたら、どうする」
「猿轡を噛ませて、磔ですかね」
「それは素晴らしいな」
そうなれば、自殺はできない。
思えば、出されたスプーンも先の割れていないタイプの物だった。
首を掻き切らない為の配慮か、余計なお世話だと今になって思う。
「貴方には死んでもらっては困るんですよ。今後の研究のこともありますし」
「細菌テロが起きた後に、その細菌について研究して、何になる」
「先ほど貴方が言ったことですよ。パンデミックを防ぐ為にもね」
あの細菌は、悪魔か。
関わっただけで、人生の全てを狂わされた気分だ。

89: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:11:30.73 ID:7unva8SU0.net
「貴方には申し訳ないですが、これは命令なのです」
たった一つの、僅か数十μmしかない極小のタンパク質に、人生を決められた。
それは絶望であり、自由の剥奪でもあった。
「拒否権は?」
「もちろん、ありません。拒否した場合、貴方は処分されます」
「処分、ね」
最早逃げ道もなかった。
どうあがいても、私は檻から出られないのだ。
ふと、ぐわんと頭が揺らいだ。
「二日目は終わりですか。いつ変わるのか楽しみですね」
そういった二尉の声が、頭に響く。

90: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:13:16.40 ID:7unva8SU0.net
パッ、と目があいた。
顔の前には、長い髪。
「おめでとうございます」
と、二尉から放たれた最大級の皮肉が、私の視界を暗転させた。

91: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:13:49.18 ID:7unva8SU0.net
「本部マルヒト。状況を開始せよ」
民間人に扮した自衛官が、路地裏にアタッシュケースを置いた。
全国の大都会の路地裏に設置された、五万もの小型のアタッシュケース。
その口がパカリと開き、中から霧吹きの様な物が顔をだす。
プシュ、と小さく細菌を散布し、それをNBC兵器用マスクを装着した自衛官が回収した。

92: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:14:17.03 ID:7unva8SU0.net
後天性性異常症候群。
この病気で私は人生を180°変えられた。
ここに記した幾つかの話と、私の話が、後世誰かの目に止まることを信じて、私は筆を執る。
性転換した後の私は、解放され、一応の自由を得た。
政府主導の研究機関に籍を置き、今でもこの病気の対抗策を日夜研究している最中だ。
いつの日か、世界が元の姿に戻ることを信じて。








ある人々の話 終

93: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:17:14.14 ID:7unva8SU0.net
以上である人々の話は終了です

94: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:20:09.79 ID:7unva8SU0.net
もしかしたら午前中におまけの様なものを投下するかもしれません

それでは皆様良い夜をお過ごしください

95: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:36:15.34 ID:tZRo45+K0.net
お疲れ様でした!
とっても 興味深い作品でした!
私自身 人類が生態の変化や非情な定めに苦しみながら
闘って行くような ストーリーの漫画を創作中です
(個人の趣味の範囲内なんですが…)
この物語は リアルな描写も世界観も
素敵でした 私は経験も浅く 素人に過ぎないんですが

とにかく たのしませていただきました!
ありがとうございましたm(__)m

96: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 00:43:22.06 ID:7unva8SU0.net
>>95
ありがとうございます
漫画ですか…私は絵が苦手なのですが「漫画だと表現し易いな」と思うことも良くありました
楽しんでいただけたのなら幸いです

97: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/11/03(月) 06:41:04.12 ID:d73EPQ7Y0.net
前半良かった
最後のは蛇足感

98: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 08:48:39.92 ID:7unva8SU0.net
>>97
最後のは方向性を変えてみたんですが
やはり少しグダグダしすぎましたね
申し訳ないです

99: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 08:49:54.32 ID:7unva8SU0.net
おまけの投下は0930から始めたいと思います

100: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:44:18.70 ID:7unva8SU0.net
少し遅れましたが投下を始めます

101: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:44:55.25 ID:7unva8SU0.net
冬の寒い日が、私は嫌いじゃなかった。
日頃からの日課であった読書が、そんな日は心地よくできるから。
片手には淹れたてで湯気を放っているミルクティー。
読んでいるのは、世界中を旅する旅人の本。
無音という心地よさの中、その手の中の本は、みるみるページを進めていく。
ふと、外の景色が気になって。
私は外の景色を見上げた。

白い雲が、空を覆っていた。
肌を刺す様な寒気が、渇いた空気とともに私の肺に吸い込まれる。
「雪……降りそうだなぁ……」
それは、年末を過ぎ、年越しも済ませた、ある日のこと。

私は、本をそっと閉じた。

102: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:46:44.53 ID:7unva8SU0.net
スリッパから、履き慣れたスニーカーに足を移し、玄関のノブをひねる。
毛糸のセーターとコートが、私の体を寒さから守ってくれた。
息を吐けば白く曇る。
私は、足取り軽く外へでた。

車の往来こそあるものの、人通りのまばらな道を歩くのは、なかなか楽しいもので。
見える景色は、冬特有の寂しくも暖かく、それでいて冷たいものだった。
一人微笑みながら、道の角を曲がる。
曲がり角のタバコ屋さんの脇に設置されている自動販売機で、ミルクティーを買った。
ポケットに入れ、カイロ替わりに両手で転がす。
「あ、っちち……」
以外と熱いもので、ポケットにミルクティーをしまい、手にふーっと息をかけた。
赤くなっているのは、寒さからか、熱さからか。

103: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:47:16.00 ID:7unva8SU0.net
「あ」
こういう日に、同じ様なことを考える人もいて。
そして私の目の前には、その同じ様なことを考えていた人がいた。
「どうしたんだ?こんなところで」
「それは私の台詞だよ……」
彼は、クラスこそ違えども、部活が同じで、かなり仲の良い友人だった。
名前は、佐久間。
「いやぁ、こういう日って、なんか外を散歩したくならない?」
「お前は私かよ……」
仲の良い理由としては、気が合う、というのが大きかった。
考えていることがだいたい一緒。
おかげで部活仲間からは「同一人物の男女バージョン」と揶揄される始末。
しかし、私も佐久間も、それが少し嬉しい様で、不思議と拒否はしなかった。
「え、マジで?いやぁ……これは本当に気が合うな、俺ら」
「そうだね、びっくりするくらいに」
佐久間は私の答えを聞くと、ハハッと楽しそうに笑った。
「だな。そういや、お前この後なんか用事あるのか?」
「いや?ないけど?」
事実、私の今日のスケジュールさ全くの白紙だった。
だから散歩にでかけた訳だけども。
「ならさ、二人で散歩しないか?一人でもいいけど、二人でも楽しそうじゃないか?」
確かに、二人で散歩したことなどなかったから、それは少し楽しそうでもある。
「佐久間はいいの?」
と、私が訊くと、佐久間はまた楽しそうに
「いいっていいって。さ、行こうか」
と言った。

104: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:48:47.05 ID:7unva8SU0.net
散歩と言っても、別段行くところもなく、私たちは線路沿いの公園で駄弁ることにした。
公園には、寒い中走り回る子供達の楽しそうな声が響いている。
よっと、と飲み物を買ってきた佐久間が腰を下ろす。
「よっとって、お爺さんみたいだよ?」
「んー?俺が爺さんならお前は婆さんだ」
佐久間は意地悪く口を歪めながらそう言った。
「ったく、まだ16だってのにさー」
私が拗ねた様に言うと、彼は
「ごめんって」
と、楽しそうに謝った。
佐久間が買ってきたのは、おしるこだった。
「なぁ佐久間?」
「ん?」
「なんで缶のおしるこには餅が入ってないんだろうな」
「え、マジで!?」
佐久間は、缶の中を必死で覗いていた。
……いくら探してもないから。
「なんだよー……。餅ないのかよ……」
「ドンマイ佐久間。気にしたら負けだよ」
思いっきりしょんぼりしてしまった佐久間の肩を、ぽんぽんと叩いた。
彼は少し立ち直ったのか、顔をあげた。

105: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:50:12.49 ID:7unva8SU0.net
「そろそろ行くかー」
私が思い腰を上げたのは、公園に来てから1時間は経ってからだった。
佐久間はうとうとしていたし、私もそろそろ公園の景色に飽きていた頃だった。
「ほれ、佐久間。起きろー」
佐久間の頬をぺしぺし叩くと、「んごっ……」と苦しそうな音を立てながら彼は目を覚ました。
「あ、寝てたのか……俺」
「10分くらいなー」
「ん、すまんすまん」
「いいって、別に」
彼はバツが悪そうにしていたが、私が早く行こうと言うと、いつもの彼に戻ってくれた。

106: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:50:43.23 ID:3F4StAxD0.net
さっきから胃が痛いよ
助けてください
死にたくないです

109: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:51:50.38 ID:7unva8SU0.net
>>106
大丈夫ですか?
無理そうだったら救急車を呼ぶかして病院に行ってくださいね?

108: 名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:51:31.68 ID:3F4StAxD0.net
誤爆しましたごめんなさい。

110: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:52:34.33 ID:7unva8SU0.net
>>108
誤爆でしたか
お大事にしてください

107: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:51:00.93 ID:7unva8SU0.net
日が陰り出した、冬の道。
私と彼は、肩を並べてあるく。
周りからは、どう見えているのだろう。
恋人、か。
そう見えていたなら、それはその人の目の錯覚だろう。
私が客観的に見ても、佐久間は恰好良い分類に入る好青年だった。
だから、私が釣り合うような男じゃないのだ。
と、私はそう思っていた。
「ふぅ……」
佐久間はため息をついた。
流石に午後中歩けば、それは疲れるだろう。
「疲れた?」
「あ、いや。少し考え事をね」

111: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:53:17.52 ID:7unva8SU0.net
道を照らす街灯が、冬の寂しさを際立たせる。
道をつくるアスファルトが、冷たく足に触れた。
佐久間は、疲れからか黙ってしまった。
私は、話しかけられずにいた。
とぼとぼと歩く、夜の道。

ついた先は、さっきの公園だった。
来たい、と思ったわけでもなく、歩を進めたらたまたまついたもので。
彼は、うつむいていた。
「佐久間……調子悪いのか?」
私が恐る恐る訊くと、彼は微笑みながら
「違う違う、少し疲れただけ」
と答えた。

112: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:53:57.30 ID:7unva8SU0.net
「違う」

私は思わずそう言っていた。
叫んでいたかもしれない。
ただ、彼の驚いた顔が忘れられなかった。


「絶対に違う。疲れただけじゃない」
「佐久間、何か隠してる」
「佐久間、何か辛いことでもあった?」

彼は、私の問いかけが一つ、また一つと増える度に辛そうな顔をした。
そして、私が「私に、話してみてよ」と言った時に、泣きそうな顔に変わった。




彼が私に放った言葉は唐突で。
私はそれを涙で返した。
彼は、受け入れて貰えた喜びで。
私は、こんな私に好意を向けてくれた人への感謝で。
それを見ていた様に、絶妙なタイミング。
空から降るのは、純白の花びら。


その日の晩、この街には雪が降った。

113: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 09:59:06.36 ID:7unva8SU0.net
冬の寒い日が、私は嫌いじゃなかった。
日頃からの日課であった読書が、そんな日は心地よくできるから。
そんな、昼下がりの空の下。
私の隣には、彼がいた。

114: ◆znJHy.L8nY @\(^o^)/ 2014/11/03(月) 10:01:13.70 ID:7unva8SU0.net
おまけも含め、これで全ての投下が終了しました

見てくださった方、感想を書いてくださった方、本当にありがとうございました

もしかしたらまたスレ立てして小説を投下するかも知れません

その時は、また見て、感想を書いていただけると嬉しいです

ありがとうございました

引用元: http://hayabusa3.2ch.sc/test/read.cgi/news4viptasu/1414907866/



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コメント

  1. 1 名無し @オレ的VIPPER速報 2014年11月06日 20:25
    知識が浅いなー
    女の遺伝子のがストレスに強いから、男児が流産されやすく女児の方が増えているのが事実
    そんで胎内のストレスで男性ホルモンを強く付加されがちで
    体格がゴツイ毛深い女が増えているんだよ

    小説より奇なりとはよくいったものだ
  2. 2 名無し @オレ的VIPPER速報 2014年12月05日 20:05
    特定遺伝子に対してのストレスって意味じゃないのか?

    女性の方が云々言ってた奴はちゃんと読んだのか?

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